1 angel near you
ひとりでいることが耐えきれなくなりそうな瞬間だったり、毎日誰かと一緒にいるはずなのに寂しさがとれないことに気がついてどっと疲れてしまう瞬間だったり、優しくありたいけれどどうしてもそれがむずかしい瞬間だったり、シンプルにいろんなことがこんがらがってどうしようもなくなってしまう瞬間だったり。そんなとき、自分のなかにそんな自分にそっくりな、傷つきやすくて優柔不断な天使をみることで安心できるかもしれない。それはセルフケアのひとつのかたちにもなるかもしれないし、あなたや僕がなんとかここに居続けることを助けてくれるかもしれません。あなたが羽を隠してしまったからこそこうやって会えたことを、いまはそうやって傷ついたままでいいということをちゃんと伝えてあげることで抱き寄せるような、そんな曲です。
2 slowboat
漕ぎ出すこととそれを見守ること。ふたつの目線を描きたい、というところから出発しました。家族であっても家族のような関係であって、恋愛でも友情でも、はたまたそのどれでもなくても、見守られる側にとっても見守る側にとってもお互いがお互いに天使的な存在だったりするのかもしれません。ここでは灯台やお守りのように書き留めたメモがそうであるように、この歌やこのアルバムが誰かにとってのそんな存在であれたらうれしいです。
亀田さんにサインをいただいた『三日月ロック』のレコードは一生の宝物です。
3 Moon Shaped
暮らしの途中、僕たちはまだ満ちていく途中であるということを受け入れることで、そして欠けたままでもここにいていいんだと思えることで、少しの安心を自分にも誰かにも差し出せたら。はなればなれの弱い予感はいつでもこの部屋に漂っていて、たまに鼻の奥につんと寂しさをもってくるけど、それもまたこの旅には必要な瞬間だったりするのです。
4 blue poetry
稲穂の向こう、遠くにみえる観覧車は僕にとって大切な景色であり、なんだか現実とフィクションの狭間をいったりきたりしているようなそんな不思議ななにかの装置のような存在でもあります。インターネット越しにしか観ることができない、遠くに暮らす人達の痛ましい現実。日常に編み込まれる感情。
ユナがふたりになる後半からの展開をレコーディングスタジオで思いついたとき、この曲が完成しました。
5 luminous
あの海のことを、あの頃あの海で自分がどんなことをかんじていたのかを、それを今の僕がどんなふうに覚えているのかを、占いが本当に苦手になってしまったことを、ちゃんとかたちに残しておきたくて作りました。一面の稲穂の海も曇りがちな海岸も、僕を閉じ込めようとしているように思える瞬間があって、でも綺麗なものでもあって。地震をきっかけにそんなことをよく考えるようになりました。どこまでも広がっていくようなギターの残響と美しいノイズに包まれて、自分の内面を覗き込むことはあの景色を音楽にする方法でもあるような気がしました。
6 ghostpia
自分が、そして近しい(と自分が思っている)誰かが持つ境界線のことを歌っています。自分の領域は自分のもので、あなたの部屋もその扉や窓もどこまでもいってもあなたのものだということ。その大切さを確認しながらそれでも手を伸ばしたいと思うのは、あなたがここにいてほしい、と願うからでもあり、自分がここにいることに意味を与えたいからなのかもしれません。他人がいて、自分がいるということ。
音像や全体のアレンジが先にあって、そのときにイメージしていたものとは違い、見守る側の視線の詩になったのが自分でも意外でした。
『ghostpia』、とても素晴らしいゲームなのでぜひ一度遊んでみてほしいです。
7 recall (I’m with you)
「Fuck Anyone Who's Not a Sea Blob」。
あの頃の海岸の空気のつめたさとたまに混じるあたたかさを閉じ込めようと思って詩を書きました。彩加さんのメロディに引っ張ってもらった感覚が一番ある曲です。
「ghostpia」とこの曲はどうしても並べておきたくてこの曲順になりました。
8 (all the bright places)
add9というコードが持つ響きにしかない匂いがあって、ギターでもキーボードでもシーケンサーを使って音を重ねるときでも、ふとその音を追いかけてしまいます。それはきっとあの頃あの海で聴いていた音楽からの影響が大きくて、今回のアルバムではその響きを意図的に大事にしています。
9 torch song
ずっとどこかでちゃんとかたちにしてあげたいと思っていた曲だったので、今回こうやってアルバムにいれることができてよかったです。「十分な時間」なんてものはないけれど、あのままこの曲をあそこに置いてきたままにするのは違う気がしていて、こんなふうに時計の針を動かすことができたのは自分たちにとってとても大事なことだと思います。
10 Tenderly, two line
ふたつの線の行方を、「ハッピーエンド」の瞬間を僕なりに描きました。
頭のなかのイメージと書きあがる言葉との間に距離があってなかなか完成しなかった歌詞が、尚子さんと色々な話をした夜の帰り道に一気に組み上がっていったのがとても印象的な出来事でした。
あの頃だからそう想ったんだよ、と簡単に済ませてしまうんじゃなくて、色んな感情のかたちや方向が、どんな組み合わせであってもあり得ることだというのはちゃんと描く、とはじめから決めていました。キャラクターソングverとHomecomings verの細かい違いも楽しんでほしいです。
11 Air
飛び立つことをためらう、か弱い天使の背中をそっと押してあげる、また会える、という行方知れずの約束をする。でもなんだかんだあって、きっとまた会える瞬間がくるだろう。それは案外すぐのことかもしれない。今はなんとなく大げさに手を振ってみるけれど。今しかないような風がやってきて、言葉を交わす間なく天使は舞い上がっていく。またね、と手を降る。大げさなくらいに。そんなシーンに音楽を作りました。うまく眠れなくなったここ何年か、しんとした夜更けに小さな音で聴くダンスミュージックには本当に救われています。
「虹の先」ということばには、さまざまなかたちの恋や愛や家族やパートナーシップや生き方が全部あたりまえになりますようにという願いをこめています。
12 kaigansen
浮かび上がっていった天使の物語からカメラがふっと降りてきて、夜明け前の静かなあの海岸へと戻っていく本当のラストシーン、という場面のイメージを詩にしました。
■CD収録曲
01. angel near you
02. slowboat
03. Moon Shaped
04. blue poetry
05. luminous
06. ghostpia
07. recall (I'm with you)
08. (all the bright places)
09. torch song
10. Tenderly, two line
11. Air
12. kaigansen
■Blu-ray収録内容
Homecomings Chamber Set at Billboard Live TOKYO 2024
01. Blue Hour
02. Moon Shaped
03. ラプス
04. Here
05. euphoria / ユーフォリア
06. 光の庭と魚の夢
07. Smoke
08. Songbirds
09. US / アス
10. Elephant
福富優樹(Gt.)によるアルバム全曲解説
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